HRB - HiPeC Reseachers Blog
ヒロシマ大学発:平和構築連携融合事業の推進をめぐる事務局メンバーの日常
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×共催:『平和構築と宗教紛争科研』(代表:外川昌彦)
包摂と排除の構造からみる現代チベット
~『多民族国家・中国』の周縁性からの理解に向けて~
報告①:阿部治平(元・青海民族大学専任講師、『もうひとつのチベット現代史』著者)
「チベット高原の片隅から~変わりゆく青海チベット地方の生活社会」
報告②:別所裕介(広島大学大学院国際協力研究科 助教)
「外縁を触知する国家~中国の越境開発と亡命チベット人の苦境」
【日時】2013 年2 月12 日(火)10:00 - 12:30
【Date】 Feb 12, 2013 (Tue) 10:00 - 12:30
【場所】広島大学国際協力研究科 1階大会議室
【Place】Large Conference Room, IDEC 1st Floor, Hiroshima University
【司会】外川昌彦(広島大学大学院国際協力研究科 准教授)
【Moderator】Prof. Masahiko Togawa(IDEC, Hiroshima University)
【コメンテーター】吉田 修(広島大学国際協力研究科 教授)
【Commentator】Prof. Osamu Yoshida(IDEC, Hiroshima University)
【概要】本研究会では、開発を通じて急接近している中国とネパールそれぞれに位置する2つのチベット人社会を取り上げ、躍進する中国主流社会との関係で両地域に訪れている変化を比較の視点から検討した。
最初の話者である阿部治平氏からは、中国の主流社会に包摂されつつある青海地方のチベット人の伝統的暮らしとその変化が、学校教育の漢語化や寄宿舎制度の導入、牧畜民の定住化政策などを事例として提示された。そして、2008年の3.14の動乱が、単純な「暴力分裂主義」の表れなのではなく、主流社会との格差の広がりやそこへの同化(教育言語・宗教抑圧・定住化)の圧力がもたらしたひとつの複雑な過程であることが指摘された。
次に、第二話者の別所裕介は、中国の包摂を逃れ、ヒマラヤ南麓に越境した亡命チベット人たちが、①親中国政権の誕生、②中国からの開発マネーの浸透、③ネパールにおける「ひとつの中国」政策追従、という連動した動きの中で苦境に立たされている現状について報告した。そして、マオイスト政治家の中国資本導入による経済開発の進展に対して、「仏教の政治利用反対」を唱える国内仏教徒と「中国主導の開発反対」を訴える亡命チベット人のグループが共闘している構図を整理した。
発表後、「現代チベット社会をめぐる包摂と排除の構造」から見出せる中国の国民国家形成の限界について議論が行われ、①チベットをめぐる国民形成の限界を生み出す要因は、中央政府と地方政府双方のレベルで看過される「文化喪失の痛み」にあること、②国民国家の枠を超えて起こる開発主義政治の連動性と、これに呼応して現地社会に生じるローカルな文脈に基づく社会的反応を総合的に捉える視座の確立が必要であること、という2点が提起された。
また、コメンテーターの吉田修・国際協力研究科教授からは、全体のコンセプトの意義を認めつつも、政治学者としての視点から、①あくまでも歴史的所産としての「国民国家」の一員としての中国の実像を捉え損ねてはならないこと、②仏教的理念と社会運動の結びつきをより鮮明に捉えるためには、むしろ運動に関わる人々の非宗教的部分での世俗性がどう構成されているかを丁寧に洗い出す目線が不可欠、という重要な提起がなされた。
総じて、学生を主体とする26名の参加者の間で、チベットの現状と中国の民族統治をめぐる多くの質疑が交わされ、実り多い討議の空間が生み出された。
〔飼い主からの一言〕ハイペック(広島大学平和構築連携融合事業)は、広島大学の基本理念である「平和を希求する精神」を具体的に追及するため、オール・ヒロシマ体制で平和構築支援の研究を推進します。マスコットキャラクターの平和構築猫「ピー助(Peace-Ke)」ともども、なにとぞよろしくお願いいたします。